横浜地方裁判所 平成9年(行ウ)46号 判決 1998年10月28日
原告
甲野太郎
被告
横浜市長
高秀秀信
被告
横浜市
右代表者市長
高秀秀信
右両名訴訟代理人弁護士
金子泰輔
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告横浜市長が原告に対し平成七年三月九日付けでした別紙文書目録一1記載の文書の一部公開決定及び平成八年一月一九日付けでした同目録二1記載の文書の一部公開決定(ただし、いずれも原告の異議申立てに対する同被告の平成九年七月二四日付け決定により同目録一、二とも各2の部分を除く範囲までは公開するように変更された後のもの)をいずれも取り消す。
2 被告横浜市は、原告に対し、金五万円及びこれに対する平成一〇年一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、請求の趣旨記載の文書公開請求当時、横浜市内に住所を有していた。
(二) 被告横浜市長(以下「被告市長」という。)は、横浜市公文書の公開等に関する条例(以下「本件条例」という。)二条に定める実施機関に該当する。
2 被告市長に対する請求
(一) 公文書一部公開決定等
(1) 原告は平成七年二月二〇日付けで被告市長に対して本件条例に基づき別紙文書目録一1記載の文書(以下「本件文書一」という。)の公開請求をしたところ、被告市長は同年三月九日付けで右請求に対して本件文書一の一部を非公開とする旨の一部公開決定(以下「本件原決定一」という。)をした。
(2) そこで、原告は平成七年五月一六日付けで被告市長に対し本件原決定一に対し異議申立て(以下「本件異議申立一」という。)をしたところ、被告市長は平成九年七月二四日付けで右申立てに対し非公開部分を別紙文書目録一2記載の部分(以下「本件非公開情報一」という。)とする旨の決定(以下「本件異議決定一」という。)をした。
(3) また、原告は平成七年一二月二六日付けで被告市長に対して本件条例に基づき別紙文書目録二1記載の各文書(以下「本件文書二」といい、本件文書一と本件文書二とを併せて「本件各文書」という。)の公開請求をしたところ、被告市長は平成八年一月一九日付けで右請求に対して本件文書二の一部を非公開とする旨の一部公開決定(以下「本件原決定二」といい、本件原決定一と同二とを併せて「本件各原決定」という。)をした。
(4) そこで、原告は平成八年三月一八日付けで被告市長に対し本件原決定二についての異議申立て(以下「本件異議申立二」といい、本件異議申立一と同二とを併せて「本件各異議申立て」という。)をしたところ、被告市長は平成九年七月二四日付けで右申立てに対し非公開部分を別紙文書目録二2記載の部分(以下「本件非公開情報二」といい、本件非公開情報一と同二とを併せて「本件各非公開情報」という。)とする旨の決定(以下「本件異議決定二」といい、本件異議決定一と同二とを併せて「本件各異議決定」という。なお、本件異議決定一と同二とは一括してされている。)をした。
(二) 本件各決定の違法性
しかしながら、本件各異議決定により変更された後の本件各原決定(以下「本件各決定」という。)には、本件条例の解釈、運用を誤った違法がある。
3 被告横浜市(以下「被告市」という。)に対する請求
(一) 違法行為
原告は本件異議申立一を平成七年五月一六日付けで、本件異議申立二を平成八年三月一八日付けでそれぞれしたが、被告市長が本件各異議決定をしたのは平成九年七月二四日付けであり、右各異議決定にこのような長期間を要したことは違法である。
(二) 損害
原告は、本件各異議申立後本件各異議決定までの間に、本件火災事故のことについて調べるために電車代及び資料代等の費用を費やした。
右費用の合計額は金五万円である。
4 結論
よって、原告は、被告市長に対して本件各決定の取消しを、被告市に対して国家賠償法一条一項に基づき金五万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日の後(本件訴状送達の日の翌日)である平成一〇年一月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1(一)及び同(二)の各事実はすべて認める。
2 同2(一)(1)ないし同(4)の各事実はすべて認める。
3 同2(二)は争う。
4 同3(一)の事実のうち、原告が本件異議申立一を平成七年五月一六日付けで、本件異議申立二を平成八年三月一八日付けでそれぞれ行い、被告市長が平成九年七月二四日付けで本件各異議決定をしたことは認め、その余の事実は否認する。本件各異議決定に要した期間は、決定に必要な相当な期間である。
5 同3(二)の事実は否認する。
三 被告らの主張(本件各決定の適法性)
1 本件各文書の内容
(一) 本件文書一は、平成六年一一月九日に横浜市港北区高田町において発生した火災(以下「本件火災」という。)に関して、横浜市が神奈川県を通じて自治省消防庁に報告した「火災報告」であり、一枚の表の中に諸々の情報を記載している。この「火災報告」は、消防組織法二二条に基づき、都道府県又は市町村が消防庁長官に対して行うこととされている消防統計及び消防情報に関する報告のための文書である。
(二) 本件文書二は、本件火災につき、消防法の規定に基づく調査の結果得られた火災原因及び損害結果を集約した書類であり、次の各書類で構成されている。
(1) 火災調査報告書
本件火災の出火日時、場所、り災程度及び出火原因等の当該報告に係る火災の概要を総括して記録したもので、各書類の導入部を形成するもの
(2) 火災原因認定書1
火災状況見分書、実況見分調書及び質問調書などの各種資料に基づき出火原因や延焼拡大原因等について認定したもの
(3) 火災状況見分書
消防隊の火災現場到着時における火災現場の状況全般を記載したもの
(4) 実況見分調書
火災鎮火後の実況見分により、火災現場における物の存在及び状態等を文字、図面及び写真等によって記載したもの
(5) 質問調書
本件火災に関係のある者に対して質問し、その者から任意に得た供述を記載したもの
(6) 火災損害額算定関係書類(本件原決定では「火災損害額決定書」)り災した物の減価消却又は損耗度を考慮して算出した損害額を記載したもの
2 本件条例九条一項一号該当性
(一) 一号のかっこ書き以外の部分の該当性
本件条例九条一項一号のかっこ書き以外の部分は、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」を公開しないことができる文書と定めているところ、本件各非公開情報は、右の情報に該当する。
(二) 一号のかっこ書き部分の非該当性
(1) 本件条例九条一項一号の前半のかっこ書きの部分は、個人に関する情報から「事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。」と定めているが、本件における火元建物占有(居住)者及び火災第一通報者等に関する情報が右の「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当しないことは明らかである。
(2) 本件条例九条一項一号の後半のかっこ書きの部分は、個人に関する情報から「法令又は条例の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上特に必要と認められるものを除く。」と定めている。
ところで、本件各文書は、火災報告取扱要領又は火災等調査規程に基づいて作成され自治省消防庁又は消防局長宛に報告された書類であり、右かっこ書き記載の情報に該当しないことは明らかである。
3 本件条例九条一項六号該当性
火災の原因究明においては、関係者しか知り得ない出火前における機器の設置位置及び日常の使用方法などの供述を得ることが不可欠である。そして、多くの場合は公表しないことを条件に、任意に関係者から回答を得、任意に立ち入りを行う方法でこれを実施している。本件各非公開情報の中にも、公表しないことを条件に得た情報があり、これらは、本件条例九条一項六号の「公開することにより当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」、「公開することにより当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」に該当する。
4 したがって、本件各非公開情報は、本件条例九条一項一号(かっこ書き以外の部分)に当たり、かつ、同号かっこ書きには該当せず、また、右情報の一部は同項六号にも該当することから、本件各決定は適法である。
四 「被告らの主張」に対する認否
「被告らの主張」1の各事実はすべて知らない。同2(一)(二)及び同3の各事実はすべて否認し、同4の主張は争う。
五 原告の反論
1 公にすることが慣行となっていて公表しても社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれのない情報等については、本件条例はその公開を禁止する趣旨ではない。
現在消防年鑑では、焼損床面積一〇〇〇平方メートル以上又は死者三名以上若しくは負傷者一〇名以上の火災に関しては、出火場所の町名、番地等が掲載されている。
以上のような諸点に照らすと、本件各非公開情報は、従来から公開を予定されていた情報と同種のものであり、公開されるべきである。
2 出火原因の判定等は総合的になされるべきであり、本件各文書については部分公開で混乱と誤解を招いている。また、他の事例と対比すると、本件における公開の基準は恣意的かつ不明確である。
理由
(証拠により認定する事実は、認定事実の前後に適宜主な証拠を摘示する。)
一 前提事実(争いのない事実)
1 請求原因1(当事者)及び同2(一)(1)ないし(4)(本件各決定に至る経緯)の各事実は当事者間に争いがない。
2 本件条例
本件条例九条一項は、次のような情報が記録されている公文書は公開しないことができると規定している。
「一号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの(法令又は条例(以下「法令等」という。)の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上特に必要と認められるものを除く。)
六号 市又は国等が行う監査、検査、契約、交渉、争訟、試験、職員の身分取扱いその他の事務事業に関する情報であって、公開することにより、当該事務事業の目的が損なわれると認められるもの、特定のものに明らかに利益若しくは不利益を与えると認められるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」
二 本件各非公開情報を非公開とした本件各決定の適否
1 本件条例九条一項一号の意義(公文書非公開の基準)
被告市長は、本件各非公開情報が本件条例九条一項一号に該当するとして、非公開にしている。そこで、まず、同条項一号の意義について検討する。
(一) 本件条例は、公文書の開示請求権を規定しているところ、そのような請求権は本件条例によって創設的に認められたというべきであり、憲法二一条等の規定があるとはいってもそれにより本件条例のような制度及び規定なしに当然に公文書の開示を導くことができるということではない。したがって、いかなる公文書ないし情報を公開すべきかは本件条例自体の各規定を解釈して判断すべきところ、本件条例は、その制定の目的を定めた一条において、「この条例は、公文書の公開等を求める市民の権利を明らかにするとともに、……市政に対する市民の理解を深め、市民と市政との信頼関係を増進し、併せて市民生活の利便の向上を図り、もって地方自治の本旨に即した市政の発展に資することを目的とする。」と規定し、本件条例制定の目的が、市民の市政に対する監視を十全ならしぬること及び市民生活の利便の向上を図ることにあることを明らかにし、さらに、その解釈及び運用の基準を定めた三条において、「実施機関は、公文書の公開等を求める市民の権利を十分に尊重してこの条例を解釈し、運用をするものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定し、公文書の公開を求める市民の権利を尊重するとともに、個人に関する情報がみだりに公開されることのないよう十分配慮すべきとの解釈基準を示している。
(二) 「個人に関する情報」の意義
次に、本件条例九条一項一号(かっこ書き以外の部分)は、同項柱書きの情報の一つとして、個人に関する情報であることと定めているところ、これは、次の(三)の基準の前段階において情報の種類を大まかに仕訳する目的と機能を有するものであるし、非公開とすることのできる情報にそれ以上の明示的な限定を付してもいないので、右「個人に関する情報」とは、単に個人に関する情報であれば足り、思想、宗教、職業等個人の人格の核心に関わる情報ないしこれと同視し得る程度に重要な情報であるという必要はないと解される。
なお、この意味での「個人に関する情報」を、以下「個人情報」ということがある。
(三) 「識別」の意義
さらに、本件条例九条一項一号(かっこ書き以外の部分)は、(二)の「個人に関する情報であって」に続けて、「特定の個人が識別され、又は識別され得る情報」と規定しているので、後者の意義について検討するに、それは、文字どおり当該情報自体によって特定の個人が識別できる情報、又は識別できる可能性のある情報であることをいう点は当然である。のみならず、それは、当該情報のみでは特定の個人を識別することはできなくとも、当該公文書以外の他の情報(文書公開の請求をしている申請者本人が個人的に持っている情報を含む。)と組み合わせることにより特定の個人を識別することができる可能性のある情報も含まれるものと解される。というのは、個人が識別されて保護すべき状態が守れない点では、この場合を除外する理由はないからである。
なお、(二)の基準を満たした個人に関する情報(個人情報)であって、(三)の基準をも満たすものを、(二)の基準を満たすだけの段階の情報(個人情報)と区別して、以下「個人識別情報」ということがある。
(四) 個人識別情報を含む公文書公開の適否に関する判断の指針
そこで、本件条例に基づく公文書の公開の適否については、以上の(一)から(三)の趣旨を踏まえて、当該公文書が個人識別情報を含むものとして非公開とされるべきかどうかを判断すべきであるところ、本件との関係でいえば、さらに次のような具体的な判断の指針を採用するべきである。
(1) 個人識別情報とそうでない情報とを含む公文書の処理
本件との関係で、具体的には、まず、個人識別情報とそうでない情報とを含む公文書の処理が問題となる。この場合には、市民の公文書の公開を求める権利をできるだけ尊重する観点に立つのが相当であり、本件条例も、個人識別情報とそうでない情報とが記載されている公文書がある場合において、公開しないことのできる情報の部分を容易にかつ文書公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離することができるときは、当該部分を除いて公文書を公開する(個人識別情報部分だけを塗りつぶして見えないようにするなどの方法によることとなる。)ものとするとされている(九条二項参照)。なお、本件各原決定及び本件各異議決定も同様の立場で処理しているところである。
ところで、ある情報aが個人識別情報かどうかを判断する際には、(三)のとおり当該情報aだけではなく、それに他の情報bを加えて判断するのが相当であると解されるが、その場合において、当該情報aが例えば後記2(一)(4)のように何をどうしたかという行為対象とか態様に関する情報であって誰がという主体に関する情報ではなく、主体に関する情報は他の情報bから得るというときがある。このときには、問題の情報aによって情報の主体が識別されるということではなく、主体に関する情報は情報bによって識別され得るわけであるが、このような場合においても、情報aは本件条例九条一項一号の個人識別情報に該当すると解するのが相当である。
というのは、第一に、形式的理由であるが、情報aが個人に関する情報(個人情報)であり、その情報の主体が誰であるかが識別され得るのは情報bによってであるということでも、右一号の規定文言には抵触しないからである。また、この点の実質的理由は次のとおりである。すなわち、できるだけ多くの情報を公開するために個人に関する情報として問題となるまとまりのある情報Aを小分けにし、その結果主体が明示されない情報aが抽出されてくる場合もあるわけで、そのときに情報aそれ自体によっては個人は識別されないとして、これを個人識別情報に当たらないとしては、もともと個人に関するまとまりのある情報Aを小分けすることにより情報Aを構成するほとんどすべての情報が個人識別情報に該当しないことになる。それでは、主体に関する別途の情報(例えば情報b)を情報a等に組み合わせることにより、情報a等の主体が識別されてしまい、文書の公開の要請の方に偏り過ぎて個人に関する情報保護の要請がなおざりにされる結果がもたらされる。したがって、まとまりのある個人情報Aを小分けにすることを許す以上、抽出された情報で主体に関しないもの(例えば情報a)について、個人が識別され得るかどうかの判断に際しては、別途情報b(特に主体に関する情報)を加えることを許さざるを得ないのである。これが、実質的な理由である。
(2) 個人識別可能性が低い情報の処理
次に、当該文書には個人情報であってかつ個人を識別し得るものが含まれているが、その識別可能性が低いという場合がある。この場合には、(1)記載の基準に照らし、まず公開できる部分と問題の部分とに区分し、前者は公開することになる。次いで、後者は、個人識別可能性が低いがこれを非公開とする(その部分を見えないように塗りつぶす。)ことは、本件条例九条一項が本来予定しているところである。
そして、文書公開の制度の主要な趣旨が市政の監視にあることからすると、当該公文書が市政の内容を明らかにするという性質のものではないか、そのような性質の弱いものである場合には、本件条例九条一項一号の趣旨解釈あるいは目的解釈の見地から、非公開となる結果を解釈上制限しなければならないといった格別の要請もない。したがって、当該文書が火災の報告書というような場合において、その中に個人識別の可能性の低い情報が含まれているときには、右情報は個人識別可能性が低いものの、これを非公開にすることに支障はないというべきである。
(3) 広く知られている個人情報の処理
さらに、当該文書が個人情報ではあるが事実上多くの人に知られている情報を含んでいるという場合がある。この場合においては、右情報は、個人情報として保護する必要性は高くはないので、原則に戻って公開するのが相当であると解される。
以上の(1)から(3)のような観点も判断の指針とすべきである。
2 本件各非公開情報を非公開とすることの適否
本件条例九条一項一号等の規定についての1のとおりの理解を前提に、本件各非公開情報を公開しないこととしたことの適否について個別的に検討する。
(一) 本件非公開情報一(別紙一2)
本件非公開情報一は、本件火災について、横浜市が神奈川県を通じて自治省消防庁に報告した「火災報告」(乙一三)のうち、出火場所の番地、出火原因のうちの経過及び着火物、火元建物のり災前の建築面積及び延べ面積、火元建物の焼損面積、損害額合計並びに建物の損害状況のうちの建築物損害額及び収容物損害額についての情報である(乙一三、弁論の全趣旨)。
「火災報告」は、火災報告取扱要領(昭和四三年一一月消防総第三九三号消防庁長官通知。以下「要領」という。)に基づき、一火災ごとに、当該火災の発生した地域の属する市町村が都道府県を通じて自治省消防庁宛に行うこととされている報告書であり、要領は、消防組織法二二条に基づき、消防庁長官が求める消防関係報告のうち火災に関する統計及び情報の形式等を定めたものである。したがって、本件非公開情報一は、市政の理解を得るための情報あるいはそのような情報を含む公文書という性質は弱いといってよいのであり、その意味からも「火災報告」の中に含まれる個人に関する情報については、個人識別可能性があり得るという程度の場合はもとより、他の情報と組み合わせることにより個人を識別できる可能性があるという場合にも、個人識別情報であるとし、あるいは個人識別情報を含む公文書であるとして、これを非公開とすることは適法であると解される。この点は、後記(二)冒頭のとおりの性質を有する本件非公開情報二についても全く同様である。
また、本件各文書は、右のとおりの性質を有する公文書であり、本件各非公開情報が、事業を営む個人の当該事業に関する情報及び法令又は条例の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し又は取得した情報でないことは明らかである。したがって、本件各非公開情報は、本件条例九条一項一号かっこ書きの情報には該当しない。
そこで、まず本件文書一の中で非公開とされた情報(本件非公開情報一)のそれぞれについて、その適否を検討する。
(1) 出火場所の番地についての情報
これは、それ自体火元となった者の住所を示すもので性質上個人に関する情報といえるし、さらにこれを公開すると、標記の情報と他の情報とを組み合わせることにより本件火災の火元となった者が識別され得ることは明らかであるから、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
(2) 火元建物の建築面積及び延べ面積についての情報
これは、火元となった者個人の財産に関する情報であり個人に関する情報ということができる。そして、標記の情報のみでは、火元建物及び火元となった者が誰であるかを識別することはできないが、標記の情報と本件火災の出火場所である横浜市港北区高田町の登記簿等の情報とを組み合わせることにより、標記の面積を有する火元建物の所有者ないし占有者が誰であるかが判明する可能性がある。特に本件各文書の公開を請求している原告は、本件火災の火元建物に隣接し類焼被害を被った建物所有者(甲野一郎)の子であり、隣接建物又はその近隣建物に居住していた(項一六、乙一・二、弁論の全趣旨)から、原告にとっては、その既存の知識と火元建物の建築面積及び延べ面積についての情報とを組み合わせることにより、標記の面積を有する火元建物の所有者ないし占有者が誰であるかが判明する可能性がある。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
(3) 火元建物の焼損面積についての情報
本件各文書の公開された部分を読めば、火元建物が全焼したことが分かる(乙一四)ところ、全焼の場合は建築面積ないし延べ面積と焼損面積とは一致することから、焼損面積についての情報が公開されると火元建物の建築面積ないし延べ面積が公開されたことになり、前記(2)で判示した理由から火元建物の所有者が識別可能となるので、焼損面積についての情報も個人識別情報に該当する。
(4) 出火原因欄のうちの経過についての情報
これは、発火源がどのような経過をたどって着火物に着火したかの過程についての情報であるが、出火原因に関する人の行動ないし態様に結びつき、関係者の過失の態様等にも影響する可能性がある。したがって、標記の情報は、まず個人に関する情報に該当する。
そして、本件各文書が、本件火災は外部の者による放火ではないと断定していることから(乙一五の三頁)、標記の経過についての情報は、火元建物の占有者についての個人情報であると認定できるところ、前述のように、原告は火元付近の建物の占有者が誰であるかをある程度把握し得る立場にあるから、これらを総合すると、標記の経過を含む出火に関与した者がある程度判明する可能性が生じる。したがって、標記の情報は、個人識別情報ということができる。
(5) 出火原因欄のうちの着火物についての情報
これは、引火した物質についての情報である。ところで、本件各文書においては、発火源についての情報を公開しているので、発火源に関する情報と着火物についての情報を組み合わせることによって、引火の経緯についての情報すなわち火元建物の占有者の過失等の態様が推測できることになる。したがって、着火物についての情報は、個人に関する情報といえる。
そして、原告の持ち合わせている火元付近の占有者に関する情報及び公開されている発火源(電気コンロ)に関する情報と右着火物に関する情報とを組み合わせると、着火物についての標記の情報を含む出火に関する経過に関わった出火者が明らかになる可能性がある。そこで、標記の情報は、個人識別情報ということができる。
(6) 損害額合計及び建物の損害状況欄のうちの建築物損害額及び収容物損害額についての各情報
これは、火元建物及び類焼建物の所有者及び占有者の財産に関する情報であり、個人情報に該当する。そして、前述のように、原告は、本件火災の火元建物の所有者ないし占有者及び類焼建物の各占有者についておおよそ見当をつけることができるから、建築物損害額及び収容物損害額が公開されると、火元建物及び類焼建物とをまとめて関係者が合計いくらの損害を被ったかが分かることとなる。このような情報は、関係者単位で見ると個人識別情報ということができる。
そして、標記の各情報は、三世帯(この点は、乙一三の火災報告表の中に公開されている。)の被った損害額の合計額であるが、右合計損害額からそれぞれの世帯が被った損害額がある程度推測できるし、金額の明示された情報の重要性をも考慮すると、標記の各情報は、個人識別情報に該当するというのが相当である。
(二) 本件非公開情報二(別紙二2)
本件非公開情報二は、火災調査に基づく火災原因及び損害結果等を記載した以下の(1)から(6)までの書類(これらの文書を集約したものが本件文書二である。)のうちに含まれる情報である。なお、火災調査は、消防法三一条ないし三五条の四の規定に基づき、火災の原因と損害を究明し、類似火災の防止を図ること等を目的として行われるものであり、横浜市では、これらの調査について必要な事項を火災等調査規程(昭和六三年一二月消防局達三〇号。乙二一)に規定している。
そこで、以下本件文書二を構成する文書毎に本件非公開情報二のそれぞれについて、個人識別情報であるかどうかを検討する。
(1) 火災調査報告書(乙一四)中の非公開情報について
右火災調査報告書は、出火日時及び場所、火元区分並びにり災程度及び原因等、当該報告に係る火災の概要を総括して記録したものである(乙一一の五頁)。
① 出火場所の番地、火元建物の建築面積及び延べ面積、損害額並びに出火原因のうちの経過及び着火物に関する各情報
これらは、前記(一)(1)(2)(4)から(6)で判示したとおりであり、個人識別情報に該当する。
② 出火者等の氏名についての情報
これが個人識別情報に該当することは明らかである。
③ 出火者等の職業、年齢についての各情報
これは、出火者の個人情報に該当する。そして、標記の各情報と他の情報(特に原告が知っている近隣の人の職業及びおおよその年齢)を組み合わせるにより、本件火災の出火者が誰であるか識別する可能性が出てくるから、標記の各情報は、個人識別情報に該当する。
④ 類焼建物(二棟ある。)の「建て面積」、延べ面積及び具体的な焼損面積についての各情報
これらは、類焼建物の所有者ないし占有者の財産に関する情報であり、個人情報に該当する。
そして、前述のように、類焼被害物件の一方の所有者は原告の父であるから、近隣居住者としての原告は、実際に類焼の被害を受けた他の一棟の建物の所有者ないし占有者が誰であるかを識別することができると推認される。しかも、火災調査報告書には、類焼建物の一方は「木造コロニアル葺モルタル塗り二階建専用住宅」と記載され、他方は「耐火二階建店舗併用住宅」と記載されていることから、原告にとっては、標記の面積で表わされる被害規模を有する類焼建物の所有者及び占有者が誰であるかが判明する可能性がある。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
⑤ 火元区分欄の左側の上段の所有者等の区分(不動文字)についての情報
これは、火災調査報告書の書式の一部であり、所有者・占有者・管理者と定型的な文字が印刷され、該当箇所を○で囲むようになっている(乙一八)ところ、原告のように火元付近の事情がある程度分かっている者からすると、標記の情報により火元建物の管理者、所有者及び占有者のいずれが出火者であるかが分かるとこれに他の情報を組み合わせ、さらに出火者を具体的に絞り込む可能性が出てくる。よって、標記の情報は、個人識別情報に該当すると解するのが相当である。
⑥ 火元区分欄の左側の下段のうちの氏名についての情報
これは、⑤の火元の所有者・管理者・占有者のいずれかに該当する者の氏名を示すものであり、個人識別情報に該当する。
⑦ 火元区分欄の左側の下段のうちの職業及び年齢についての各情報
これは、⑤の火元の所有者・管理者・占有者のいずれかに該当する者の職業及び年齢を示すものであり、他の情報と組み合わせることにより出火者の特定につながる可能性があるから、個人識別情報に該当する。
(2) 火災原因認定書1(乙一五)中の非公開情報について
右火災原因認定書1は、後述の火災状況見分書(乙一六)及び実況見分調書(乙一七)等の各種資料に基づいて検討及び考察を行い、その最終結論を記録したものである(乙一一の五頁)。また、非公開部分にどんな事項が記載されているかに関する以下の事実は、主として証拠(乙一九)により認められるものである。
① 火元建物の番地、出火の経過並びに火元建物の「建面積」及び延べ面積についての各情報
これは、前記(一)で判示したように、個人識別情報である。
② 火元建物の所有者及び占有者の氏名についての各情報
これが個人識別情報に該当することは明らかである。
③ 火元建物の所有者及び占有者の職業及び年齢についての各情報
これは、火元建物の所有者ないし占有者の個人情報に該当する。
そして、前述のように、原告は火元建物の所有者ないし占有者に該当する可能性のある者の年齢及び職業等を知っている可能性があるから、標記の各情報と原告の右知識を組み合わせることによって、火元建物の所有者ないし占有者が誰でその職業と年齢とがどうであるかが分かる可能性がある。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当するということができる。
④ 火元建物の建築年数についての情報
これは、火元建物の所有者ないし占有者の財産についての情報であるから個人識別情報に該当する。そして、標記の情報と登記簿等の情報を組み合わせることにより、本件火災の火元の建物の所有者ないし占有者及びその所有建物の建築年数が識別され得ることから、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
⑤ 火元建物の内部の状況についての各情報
これは、火元建物の所有者ないし占有者の財産に関する個人情報を含んでおり、これに原告の知っている他の情報を組み合わせると、火元の建物の所有者ないし占有者が誰でその者が管理していた火元の建物の内部の財産等の状況がどうであったかについての情報を識別することができる可能性がある。したがって、標記の情報は、個人識別情報である。
⑥ 火元建物の占有者の供述についての各情報
これは、火元建物の占有者の人物、財産、行動及び生活習慣等に関する情報であり、放火かどうかを判断するための根拠に使われている個人情報である。これに原告の有する情報を組み合わせると、標記の情報が誰のどのようなことに関する情報であるかを識別する可能性が生まれる。したがって、標記の情報は、個人識別情報である。
⑦ 火元建物の占有者の供述を基に出火に至った経過について消防機関が考察した内容を記載した情報
これは、火元建物の占有者の火災前の行動に関する情報を含んでおり、その部分は右占有者の個人情報に該当する。
そして、標記の情報と他の情報(原告の有する情報を含む。)を組み合わせることにより本件火災の火元建物の占有者が誰でその者の行動がどうであり、それが出火と結びつくかどうかを識別することが可能である。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
⑧ 各類焼建物の所有者の氏名についての各情報
これは、類焼建物の所有者を明らかにするものであり、性質上個人識別情報に該当する。
⑨ 各類焼建物の所有者の職業及び年齢についての各情報
これは、本件火災の各類焼建物の所有者の個人情報に該当し、これと原告の有する情報とを組み合わせると、各類焼建物の所有者が誰でその者の年齢と職業がどうであるかを識別することができる可能性があるので、標記の各情報は、個人識別情報に該当する。
⑩ 火災第一発見者及び火災第一通報者の氏名についての各情報
これは、それ自体右各人の個人識別情報に該当するが、さらに、右火災第一発見者及び火災第一通報者は、本件火災の類焼建物の居住者である(乙一五、弁論の全趣旨)ことから、標記の各情報は、本件火災の類焼被害にあった建物の居住者を示すものでもあり、この点からも個人識別情報に該当する。
⑪ 火災第一発見者及び火災第一通報者の職業及び年齢についての各情報
これが右各人の個人情報に該当することは明らかである。
そして、前述のように、右火災第一発見者及び火災第一通報者は本件火災の類焼建物の居住者であり、原告は、本件火災の類焼建物の居住者が誰であるか識別し得るのである。したがって、標記の各情報は、他の情報と組み合わせることにより、誰が第一発見者及び第一通報者であるかを識別させ得るものであり、個人識別情報に該当する。
⑫ 火災第一発見者の供述についての情報
これは、本件火災についての質問に対する第一発見者の供述であるところ、前述のように右第一発見者は本件火災の類焼建物の居住者であるから、標記の情報が公開されると、これと他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人としての発見者及びその供述内容が明らかとなる可能性が高い。したがって、標記の情報は、個人識別情報というべきである。
⑬ 類焼建物の名称及びその関係者の氏名についての情報
これは、本件火災の類焼建物の名称及びその関係者の氏名を示すものであり、個人識別情報に該当する。
⑭ 類焼建物の関係者の行動についての情報
これは、標記の関係者の行動についての情報であり、非公開とされた前後の文脈(火災原因認定書1の三頁)からみて、本件出火の際に火元建物に外部者が侵入することは考えられない旨の認定の根拠となるものである。したがって、右関係者の個人情報に該当する。
そして、原告は本件火災の類焼建物の占有者が誰であるか認識し得る立場にあるから、標記の情報と原告の有する知識と組み合わせると、類焼建物に関係する者が誰でその者が出火の際にどのような行動を取ったかを識別し得ることとなる。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当するというべきである。
(3) 火災状況見分書(乙一六)中の非公開情報について
火災状況見分書は、先着消防隊が、火災現場への出場から火災初期の見分までの状況を記録したものである(乙一一の五頁)。
① 火元建物の番地、火元建物の占有者の氏名及び類焼建物の所有者の氏名についての各情報
これは、前述のように、個人識別情報に該当する。
② 火元建物及び類焼建物の建物外周部の焼損状況の写真及び写真説明についての各情報
これは、火元建物及び類焼建物の所有者ないし占有者が本件火災によりいかなる被害を被ったかを示すものであり、右各人の個人情報に該当する。
そして、標記の各情報と原告が付近居住者として本件火災について見聞きした知識とを組み合わせれば、被害内容が標記のように写真で明らかにされた火元建物及び類焼建物の所有者及び占有者を識別し得ることとなる。したがって、標記の各情報は、個人識別情報に該当するということができる。
③ 火災通報者の供述についての情報
これは、火災通報者の本件火災の際の行動を示す供述であり、右火災通報者の個人情報に該当する。
そして、右火災通報者は本件火災の類焼建物の居住者であると認められる(乙一九の二枚目―乙一五の一頁⑤についての説明部分)ところ、前述のように原告は右類焼建物の居住者が誰であるかを認識し得る。したがって、標記の情報は、他の情報と組み合わせることにより原告にとっては誰がどのように通報したかを識別し得るものといえるから、個人識別情報ということができる。
④ 火元建物の状況についての情報
これは、本件火災の消火活動中における火元建物の焼燬の状況を示すものであり、火元建物の所有者ないし占有者の個人情報に該当する。そして、原告は本件火災の火元付近の状況をある程度知っているので、標記の情報は、他の情報と組み合わせることにより、どこが火元でその火元建物がどのように焼燬したかを示すものとして、個人識別情報に該当するというべきである。
(4) 実況見分調書(乙一七)中の非公開情報について
実況見分調書は、本件火災鎮火後に、建物及び発火源ないし着火物となった物の焼損状況等について、火災現場に実際に立ち入り、出火前の状況を復元するなどして調査した結果を記録したものである(乙一一の五頁)。
① 火元建物の番地、火元建物の所有者及び占有者の各氏名、職業及び年齢、火元建物の「建面積」及び延面積、各類焼建物の各所有者の氏名、職業及び年齢、各類焼建物の各「建面積」、各延面積及び各焼損面積並びに類焼建物の建物の名称についての各情報
これらは、前述のように、個人識別情報に該当する。
② 火元建物のり災世帯及び人員数についての各情報
これは、本件火災の火元建物の居住者の世帯数及び人数を示すものであり、個人情報に該当する。
そして、原告は付近居住者として付近の世帯と人をある程度知っているから、標記の各情報と原告の有する右情報とを組み合わせると、火元建物の所有者あるいは占有者が誰であるかが識別され得る。したがって、標記の情報は、個人識別情報に該当する。
③ 火元建物及び各類焼建物の建物外周部及び建物内部の焼損状況の写真及び写真説明についての各情報
これは、本件火災の火元建物及び各類焼建物の被害状況を示すものであり、本件火災の火元建物及び各類焼建物の所有者及び占有者の個人情報に該当する。
そして、標記の各情報と原告が付近居住者として本件火災について見聞きした知識とを組み合わせれば、被害内容が標記のように写真で明らかにされた火元建物及び類焼建物の所有者及び占有者が原告には判明する可能性がある。したがって、標記の各情報は、個人識別情報に該当するということができる。
(5) 質問調書について
質問調書は、火災に関係のある者に対し、必要事項を質問した結果を記録したものである(乙一一の五頁)。
したがって、右質問調書に記録された情報は、本件火災に関係のある右の供述者の個人情報に該当する。そして、証拠(乙一五)によれば、標記の情報の中には質問を受けた者の氏名等が含まれ、内容的には火災原因等に関する質疑がされているものと推測される。したがって、右部分を公開すれば右供述者が識別されることは明らかである。
そして、質問に対する回答を記載した書面(標記の書面)の性質からして、供述者の氏名や人物を識別させる情報が他の情報と不可分的に結合していて前者の情報だけを抽出してそれだけを非公開とすることができないと推認される。
したがって、右質問調書の全体が個人識別情報に該当するというべきである。
(6) 火災損害額算定関係書類について
火災損害額算定関係書類は、火災損害額決定書、損害算定書及び火災損害申告書から構成されており、火元及び類焼世帯の焼損面積、人員及び損害額のほか、り災した動産の種類、数及び購入金額等を記録したものである(乙一一の五頁)。
これらの文書に記載された各情報は、本件火災の火元建物又は類焼建物の所有者及び占有者の財産に関する情報であり、原告の有している情報と組み合わせると、本件火災においてどのような人がどのような損害を被ったかをおおよそ識別し得ることになる。したがって、標記の情報は、全部が個人識別情報に該当する。
なお、標記の各情報は、性質上その全部の内容が個人識別情報に該当し、一部だけ区分して公開する余地もないと考えられる。
(三) まとめ
本件各文書が火災の報告書であって市政の内容を明らかにするという性質をほとんど有しないものであることを踏まえると、右(二)のとおりの本件各非公開情報を非公開とした本件各決定における判断は、合理的であってそこに違法はないと解される。
3 原告の主張について
原告は、本件各非公開情報は慣行的に公開されているものと同種であるし、被告市長による情報の扱いが恣意的である等と主張する。
しかし、原告指摘の公開情報とは大規模な火災であるところ、大規模火災は市民への影響が大きく、市民の関心も高く、またマスコミによる報道がされたりするため、当該大規模火災が発生したという事実自体は人々に広く知られることとなるのが通例である。そのため、小規模火災の場合にあっては個人識別情報とされる種類の情報が、大規模火災においては公知であることとなる場合が生じる。このような公知の事実は、個人情報であっても、それによってなんらかの情報を人に新たに知らせるというものでなく、また、非公開とするだけの実益もないので、個人識別情報には該当しないというのが相当である。したがって、大規模火災に本件火災と扱いが異なるように見える面があっても致し方ないというべきである。
また、右のような大規模でない火災については、個人識別情報を保護する必要性のある範囲が相対的に多くなるので、関係文書が塗りつぶされる部分とそうでない部分とに区分される程度(いわば虫食い状に開示される程度)が相対的に大きくなる。そのため、右の情報を知りたい者からすると苛立ちが募る面があり得るし、時には同種の文書の扱いに関し非公開とする情報の範囲程度に統一性が保たれているか疑問の生じる場合もあるかもしれない。しかし、仮にそのようなことがあっても、本件各決定は、個人識別情報保護の制約の中でできるだけ多くの情報を公開しようとする目的に出たものであり、かつ、それぞれの区分された情報について非公開とすることの判断自体に違法はないので、仮に同種情報の扱いに結果的に不均衡があってもそれをもって直ちに不合理ということは相当でない。
なお、原告にとっては近隣の類焼被害者の子という立場から知り得る情報があるために、本件では原告との関係で個人識別情報に該当し非公開とされる情報が多いことは前示のとおりである。この点は、原告のように情報を知りたい者が逆に情報に近づけないという点で、結果的に一見不合理に感じられるかもしれない。しかし、情報に近づける他者と同等かそれ以上の情報を原告はいわば既に持っているのであるから、右の点は、実質的にはそれほど不合理ではない。また、原告が本件火災の類焼被害者の子として仮に失火者がいるかどうかを知り、その責任を求めるための情報を得たいとした場合には、本件文書公開制度の利用以外にも手段が全くないではないと考えられる。したがって、本件条例に基づく文書公開制度の利用によって原告が得られる成果が前示の程度であっても、本件文書公開制度の趣旨が主として市政を理解することに資するようにすることにあることをも併せ考えれば、そのような結果が不合理ということはできない。
4 まとめ
以上のとおり、本件各非公開情報はいずれも個人識別情報に該当するということができ、被告市長が原告に対して本件条例九条一項一号に基づき本件各非公開情報を公開しないとした本件各決定には、同項六号該当性を検討するまでもなく、違法はないというべきである。
三 被告市に対する損害賠償請求について
原告は、本件各異議申立てから本件各異議決定までに長期間を要したことが違法である旨主張するので、この点を検討する。
争いのない事実、証拠(乙五、一〇、一一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告市長に対して本件異議申立一を平成七年五月一六日付けで、本件異議申立二を平成八年三月一八日付けでそれぞれ行い、これに対して被告市長は本件異議申立一については平成七年六月二日付けで、本件異議申立二については平成八年四月一〇日付けで、それぞれ本件条例一五条に基づき横浜市公文書公開審査会(以下「審査会」という。)を諮問し、これを受けて審査会は右諮問に係る審議を重ね平成九年六月二六日付けで右各諮問に対する答申を一括して行い、被告市長は右答申を尊重して平成九年七月二四日付けで本件各異議決定をしたことが認められる。
以上の事実に照らすと、本件各文書を公開すべきか否かの審査はそれ程容易ではなく、そのために審査会が慎重に審議を重ねたために本件各異議申立てから本件各異議決定までの間におよそ二年二か月又は一年四か月の期間を要したものと認められる。そうすると、本件各異議決定までに右の程度の期間を要したことをもって違法と評価することはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
四 結び
よって、原告の請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・岡光民雄、裁判官・近藤壽邦、裁判官・佐野信)
別紙文書目録<省略>